源氏物語 第四十八帖 早蕨より 中の君、蕨を贈られる 其の二

  姉の大君が亡くなり悲しみの中で暮らす中の君の所へ、山の阿闍梨より新年の挨拶と共に山菜が送られてきた。添えられた一生懸命に詠まれた歌に、心惹かれ感涙しているところを描いた。文を読んでいるのが中の君。他の二人はお付きの女房。「御前に詠み申さしめたまへ」とあるので、今だったら、女房が文を読み、中の君が袖を頬に当て感涙しているところを描くだろう。「をかしき籠」も、当時いろいろ資料を探して私なりに描いたつもりだが、かなり怪しいものになっている。初音にも籠が登場する。明石の君が娘に贈ったもので、洗練された美しい籠に違いない。ここでは山の阿闍梨から贈られた山菜を収めた籠なので、素朴で飾り気のない籠を描いた。高速道路のパーキングで、真空パックの山菜を詰めて売っているカゴにこんなのがあったような。


同じ構図で別の貝覆い貝

 貝合わせ使う貝には図案に一定のお決まりがあった。その中でも、制作するにあたり最初のハードルは源氏雲だった。源氏雲とは、金箔で雲を表現したもので、多くの場合、金箔の雲の中に点や亀甲柄の盛り上がった模様が描かれている。もちろん無地の金箔地に花鳥など描かれたものはあるが、そちらの方が珍しくほとんどの貝合わせには、なんらかの形で源氏雲が描かれている。貝に源氏絵を描くには避けては通れない必須アイテムだろう。

 盛り上げを行うには、貝殻を砕いてすりつぶした胡粉という絵の具を使う。ただし、そのままでは点や線の真ん中が窪んでしまい、クリッと盛り上がらない。それを回避するため、狩野派には技法が残っていて、盛り上げをするのに起上胡粉という一度腐らせた胡粉を使う。ただし、名の通り胡粉を腐らせなければいけない。今すぐ描きたいのにそんな悠長なことはしていられない。この宇治十帖の源氏雲は水分をなるべく減らした花胡粉を使って描いた。その為に盛り上げた胡粉は、クリッと丸く盛り上がらず、ダラッと平面的で中心が窪んでしまっている。

 起上胡粉については後で詳しく書こうと思う。

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