小さな筆架

  私の使っている筆はすこぶる小さい。絵を描くとき、簡単な隈などは片方を口にくわえて作業している。しかし、何本か持ち替える時はそうもいかない。また、最近になって人に教える機会ができた。その時に筆を口にくわえるのは見た目も悪いし、このご時勢には衛生的でない。気をつけるようにはしているが、習慣とは恐ろしいもので気がついたら筆をくわえている。嬉しそうに筆をくわえる姿はまるで犬だ。少なくとも、生徒さんにはそのように見えているだろう。

 かねてから筆架を使うようにはしていたが、なかなか習慣になっていない。でも取りあえずは持ってはいる。訳あって制作の環境が少し変わることになった。机のまわりを整理して、なるべく筆架を使うよう習慣づけてみようと思うこの頃だ。

筆架に見立てた目貫

 筆架として使っているのは片目貫と呼ばれている物だ。もともとは刀の拵えの柄(手で握る所)の装飾金具、二つで一組の目貫として作られたが、片方が紛失し、煙草入れの金具として再利用されていた物だ。昔は二、三千円で手に入ったが、最近はちょっと良いものだと結構な値段だ。

 両方とも赤銅製。左は獅子が二匹遊ぶ姿、右は蛤三個。典型的な後藤家の図柄だ。幅が38m m位。表面に二個所の窪みがあるので筆架に見立てた。場所を取らず使いやすい。行き詰まったらぼんやり眺めている。昔はこんな仕事を当たり前にやっていたんだと思うとつくづく感心する。

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