源氏物語 第三十一帖 真木柱より 姫君、柱の割れ目に歌を残す 其の二

 冬の夕暮れ、中央、柱の割れ目に、檜皮色重(表蘇芳)の紙を、笄で差し込んでいるのが真木柱の姫君。この時まだ十二、三歳なので衣装は、松襲(表着は蘇芳、五衣に萌葱匂、単に紅)の細長を想定した。(襲色目については同じ呼び方でも参考にした資料によって色の配置が色々と違うことをご了承願いたい。)姫君の赤い細長には、とっておきの昔の天然辰砂を使った。絵具の解き方も特別で、膠で解いた絵具を揺すると赤い絵具に僅かなグラデーションができる。そこから好みの赤を筆に掬い取って描いた。高貴な女性に蘇芳の色を使う時はほぼ辰砂を使っている。


 右上、袖で涙を拭うのが髭黒の北の方(正妻)。実はこの時に本文では北の方は「いでや」と姫君の行いを否定している。気丈な性格で、悲しさを越え怒りさえ感じる言動だが、ここで一人怒ってもらっていてもどう描いて良いかわからないので袖で目を拭っていただいた。衣装は雪の下襲の小袿姿。雪の下襲は紅梅に雪が降り積り、じっと耐える姿だとか。
 その下の女房は中将のお許。衣装は薄桜重の唐衣、萌葱匂襲の五衣。左の女房は木工の君。衣装は紅梅匂重ね唐衣。木工の君は髭黒大将付きの女房なので、真木柱達とはこの後に別れることになる。見送るように、一人向きを変えた。

 本文では衣装について何も説明がない。季節、状況、人の性格に配色等、色々考慮し私が見繕った。真木の柱とは、檜や杉などでできた太い丸柱をいう。この場面では真木柱がいつ戻るかもしれない父親を待つという事にこだわった。本文には無いが、庭には「待つ」を暗示させる松の木を大きく描いた。真木柱の松襲もそれに由来する。

コメント