源氏物語 第四十八帖 早蕨より 中の君、蕨を贈られる 其の一
宇治の山里にも春の日差しは区別なく差し込みます。中の君は、すべてに共に生きてきた大君が亡くなり、父宮が亡くなった時よりも強く悲く鬱々とした日々を過ごしています。
【本文】
阿闍梨のもとより 年改まりては 何ごとかおはしますらむ 御祈りは たゆみなく仕うまつりはべり 今は 一所の御ことをなむ 安からず念じきこえさする など聞こえて 蕨つくづくしをかしき籠に入れて これは 童べの供養じてはべる初穂なり とて たてまつれり 手は いと悪しうて 歌は わざとがましくひき放ちてぞ書きたる
君にとてあまたの春を摘みしかば 常を忘れぬ初蕨なり
御前に詠み申さしめたまへ とあり
【意訳】
山の阿闍梨の所から「年が改まりましてからは、いかがお過ごしでしょうか。ご祈祷は、怠りなくお勤めいたしております。今は、あなた様の事を、ご無事にとお祈りいたしております」などとしたため上げて、蕨や土筆を風流な籠に入れて、「これは、童たちが供養してくれましたお初穂でございます」と、献上されました。とても悪筆で、歌は、わざとらしく放ち書きで書かれています。
「姫君にと思い恒例の春に摘みましたので、今年も例年どおりの初蕨でございます。御前でお詠み申し上げてください」とあります。
〈其の二〉
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