源氏物語 第四十九帖 宿木より 匂宮、琵琶を弾く 其の一

 宇治を訪れていた薫は、帰宅の途中に深山木に寄生している紅葉した葛を中の君のために取って戻ります。葛に文を添えて中の君へ送りますが、匂宮がいるときに届いてしまいます。匂宮は中の君に返事を書くように勧めてはいますが、自分に浮気な心が有るので薫との仲を疑っています。中の君はやましいところがないので面白くはありません。

源氏物語 第四十九帖 宿木の貝合わせ

【本文】
なつかしきほどの御衣どもに 直衣ばかり着たまひて 琵琶を弾きゐたまへり 黄鐘調の掻き合はせを いとあはれに弾きなしたまへば 女君も心に入りたまへることにて もの怨じもえし果てたまはず 小さき御几帳のつまより 脇息に寄りかかりて ほのかにさし出でたまへる いと見まほしくらうたげなり

【意訳】
 着なれた御衣に、直衣だけをお召しになり、琵琶を弾いていらっしゃいました。黄鐘調の掻き合わせを、たいそう美しくお弾きになるので、女君もたしなんでいらっしゃるものですから、物恨みもなさらずに、小さい御几帳の端から、脇息に寄り掛かって、わずかにお出しになった顔は、まことにいつまでも見ていたいほど可愛らしいご様子です。

其の二

コメント