源氏物語 第五十一帖 浮舟より 匂宮、浮舟と宇治川へ 其の一
如月の十日頃、宮中で詩会が催されるが、雪が激しくなり早めに打ち切られ翌日に持ち越されました。そのとき薫が何気に宇治に因んだ歌を口ずさむのを匂宮が聞いてしまいます。匂宮は宇治に残した浮舟が気になり居ても立ってもいられません。翌日、歌を献上するのもうわの空で、苦しい口実を作り、浮舟に会いに深い雪の残る宇治へ向かいます。宇治に着いた匂宮は川の向こうの家へ浮舟を連れてゆく手配をします。
【本文】
いとはかなげなるものと 明け暮れ見出だす小さき舟に乗りたまひて さし渡りたまふほど 遥かならむ岸にしも漕ぎ離れたらむやうに心細くおぼえて つとつきて抱かれたるも いとらうたしと思す 有明の月澄み昇りて 水の面も曇りなきに これなむ 橘の小島 と申して 御舟しばしさしとどめたるを見たまへば 大きやかなる岩のさまして されたる常磐木の蔭茂れり
【意訳】
浮舟は、実に頼りないものと、日ごろ眺めていた頼りない小さな舟にお乗りになり、川をお渡りなさる間も、遥か遠い岸に向かって漕ぎ離れて行ってしまうような心細い気持ちがして、ひしっと寄り添い抱かれているのを、匂宮は、とてもいじらしいとお思いになられます。有明の月が澄み上って、川面も曇りなく見えているところに、「ここが、橘の小島でございます」と申して、お舟をしばらくお止めになりその先を御覧になると、大きな岩のような形をして、洒落た常磐木が茂っていました。
対岸まで小さな小舟で川を渡るなか、心細さに打ち震える浮舟と、それをいじらしいと抱き抱える匂宮を描いた。この舟にはあと二人、右近が遣わした供の者と船頭が乗っているが野暮なので省いた。
〈其の二〉
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