源氏物語 第五十二帖 蜻蛉より 薫、女一の宮を垣間見る 其の一
蓮の花の盛りの頃、明石の中宮は法華八講を催されました。五日目の法会が終わって人々が片付けを済ませて人の少なくなった夕方。薫はどうしてもお会いしたい僧がいるので部屋を回って探します。すると、襖が少し開いているところを見つけたので、中を覗くと部屋の奥の方までが見渡せました。
【本文】
氷をものの蓋に置きて割るとて もて騒ぐ人びと 大人三人ばかり 童と居たり 唐衣も汗衫も着ず 皆うちとけたれば 御前とは見たまはぬに 白き薄物の御衣着替へたまへる人の 手に氷を持ちながらかく争ふを すこし笑みたまへる御顔 言はむ方なくうつくしげなり
【意訳】
氷を物の蓋の上に置いて割ろうとして、騒いでいる人々が、女房三人ほどと、童とがいました。唐衣も汗衫も着ず、みな打ち解けている様子なので、一の宮の御前とは見えませんでしたが、白い羅の御衣を着ていらっしゃる姫が、手に氷を持ちながら皆はしゃいでいるのを、少しほほ笑んで見ていらっしゃるお顔が、言いようもなく美しく見えます。
〈其の二〉
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