源氏物語 第四十六帖 椎本より 薫、八の宮邸を訪れる 其の一
如月の二十日頃。匂宮は初瀬詣の帰途に夕霧の宇治の別荘へ中宿りに立ち寄られました。薫に歓待され賑やかに管弦を催し遊びます。その笛の音は、対岸の八の宮の山荘まで聞こえました。薫はかねがね八の宮の山荘へ伺いたいと思っていました。そこへ八の宮より文が届きます。薫は桜の花が咲き乱れる中、管弦の上手な公達を誘って舟の上で酣酔楽を演奏しながら八の宮の山荘へ向かいました。
【本文】
中将は参うでたまふ 遊びに心入れたる君たち誘ひて さしやりたまふほど 酣酔楽遊びて 水に臨きたる廊に造りおろしたる階の心ばへなど さる方にいとをかしう ゆゑある宮なれば 人びと心して舟よりおりたまふ
【意訳】
中将の薫は対岸へお伺いになさります。遊びに夢中になっている公達を誘って、棹さしてお渡りになる間は、酣酔楽を合奏なさいまして、水に臨んだ廊に造りつけてある階段の意匠などは、その方面ではたいそう凝った趣向の、由緒のある宮邸なので、人びとは心して舟からお下りになります。
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