源氏物語 第五十三帖 手習より 浮舟、出家して手習する 其の一

 横川の僧都は、女一宮の病の加持祈祷の為に下山し、小野へ立ち寄ります。かねてから出家を望んでいた浮舟は、出家を反対していた尼君が初瀬詣でて留守の間に、今この時と僧都に懇願して出家をしてしまいました。
源氏物語 第五十三帖 手習の貝合わせ

【本文】
思ふことを人に言ひ続けむ言の葉は もとよりだにはかばかしからぬ身を まいてなつかしうことわるべき人さへなければ ただ硯に向かひて 思ひあまる折には 手習をのみ たけきこととは 書きつけたまふ
  なきものに 身をも人をも 思ひつつ 捨ててし世をぞ さらに捨てつる
今は、かくて限りつるぞかし

【意訳】
 出家した翌朝に浮舟は不揃いに切られた髪を気にしながらも、思っていることを人に言い続け言葉にするようなことは、もとより上手くできない身なのに、まして親しく話の相談に乗ってくれる人さえいないので、ただ硯に向かって、思い余る時には、手習いだけを、精一杯の仕事として、お書きになられます。
「死んで全てを清算しようと、我が身も愛しい人もと、思って、捨てた世を、死に切れずにさらにまた出家という形で捨てたのだ。」
 今は、こうしてすべてを終わりにした。

其の二

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