源氏物語 第五十四帖 夢浮橋より 小君、薫からの手紙を渡す 其の一
浮舟の住む小野へ、浮舟の弟の小君が、横川の僧都と薫からの手紙を携えて会いに来ます。浮舟は、簾から覗き見た弟の姿に懐かしさを覚え、母を思い出し涙ぐみます。小君は母屋の際に几帳を立てて招かれます。
【本文】
几帳のもとに押し寄せたてまつりたれば あれにもあらでゐたまへるけはひ 異人には似ぬ心地すれば そこもとに寄りて奉りつ 御返り疾く(とく)賜はりて 参りなむ と かく疎々(うとうと)しきを 心憂しと思ひて急ぐ 尼君 御文ひき解きて 見せたてまつる ありしながらの御手にて 紙の香など 例の 世づかぬまでしみたり
【意訳】
几帳のそばに押し寄せいたしましたので、浮舟の不本意ながらとお座りになる気配がします、それが他人とは思えぬ気がするものですから、小君はすぐそばに近寄ってお手紙を差し上げなさいます。「お返事を早く頂戴して、帰りましょう」と、このようによそよそしいのを、心苦しいと思って急がれます。尼君は、お手紙を開いて、お見せ申し上げます。昔のままのご筆跡で、紙の香りなど、いつもの様に、有り得ないほどに染み着いていました。
〈其の二〉
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